映画「八重子のハミング」あらすじ

長年夫婦で教職に従事してきた、石崎誠吾と八重子夫婦。しかし、誠吾は友人である榎木の病院で健康診断を受けたところ、胃に癌が見つかる。幸い、手術すれば完治の見込みは高い状態ではあったが、夫の発病に妻の八重子はうろたえ、精神を取り乱してしまう。しかし、八重子はなんとか病の夫を献身的に支え、誠吾も徐々に回復に向かう。
ところが誠吾の回復と反比例し、八重子の行動に異変が起こる。同じ行動を繰り返す、物忘れがひどくなる。最初はささやかな兆しだった。ある時、とっくに亡くなっている親戚の死を、八重子が失念していたことに事の重大さを感じた誠吾は、医師の榎木に相談する。榎木が下した結論は、「若年性アルツハイマーの疑いが強い」という過酷なものだった。
アルツハイマーという病を受け止め、病がどういうものか知り、献身的に八重子を支える誠吾とその子供・孫たち。病とはいえ母親に存在すら忘れられるという厳しい現実、昨日できていたことが今日はできなくなる辛さ。ただのきれいごとだけでは済まない、過酷な介護の現実を、家族たちは「愛情」という心の軸だけを頼りに、協力して乗り越えていく。
介護をしている誠吾自身も、また癌闘病で4度の手術に耐えねばならなかった。しかしそれでも自分が生きているのは、八重子を支えなきゃいけないという使命感だと痛感する。母親と友人榎木の「八重子さんはお前を生かすために病気になった」という言葉に、その通りだと思う誠吾。教育長の変わりはいるが八重子の夫は自分だけとだけと痛感する。誠吾は最後は教育の仕事現場から去り、八重子の介護に専念する。
音楽の教師だった八重子は、アルツハイマーが進行しても歌をずっと愛していた。そんな八重子のハミングが、過去も今もこれからも、誠吾の胸に響き続ける。

映画「八重子のハミング」感想

手術や薬で完治する病気とは異なり、アルツハイマーは徐々に進行していく病気です。現在では進行を遅らせる薬も出てきているようですし、福祉制度の充実で家族が仕事を捨ててまで介護に専念しなくてもいいようにはなりつつあります。それでも愛情をもって発症した家族をちゃんと支えていこうという決断をしっかりしなければ、思いやりを持っていさえすればどうにかなるというレベルではないという現実がこの映画では描かれており、病気や介護方法への理解を深める良作だと思います。
また、いろいろご苦労はあるものの、この映画に常に流れている何とも言えぬ夫婦・家族の間の深い愛情は、人間の幸不幸は表面上に起こったことのみを指すのではなく、日常の問題をどう乗り越えていくかに真価があることに気づかせてくれます。
私たちは表面上の平和や資産価値、病気の有無など、トラブルがないことのみを幸せだと捉えがちですが、本当の幸せはトラブルに遭ってもそれを乗り越える力があるかどうかなのかもしれません。
なお、八重子役の高橋洋子さん、誠吾役の升毅さんの自然な演技、また、若いころから老いていく姿が非常に自然で、幅広い演技力を感じる作品でもあります。